[寄稿]勝村誠「ヘイトスピーチとレイシズムにいかに向き合うか」(『立命館の民主主義を考える会(元教員)NEWS』53号、2014年10月16日)

 去る1月11日(土)の午後であった。パソコンに電源を入れ、ネットにつなぎ、facebookにアクセスすると、ふだん「いいね」や「コメント」でお付き合いのある経済学部の金丸裕一先生から「こんにちは。もし、K先生の件でお力添えできるような事ありましたら、お伝え下さい」とのメッセージが。この一報をきっかけに、私はK先生がネット上で激しい攻撃の嵐にさらされている様を(パソコンのディスプレイを通してではあるが)目の当たりにし、暗鬱たる気分に落とし込まれた。そこで見た光景は、言葉によって一人の人間の存在を抹殺せんとする悪意の集合体であった。

 私は2005年の設立以来、立命館大学コリア研究センターにかかわってきた。K先生は若手研究者の一人として、つねづねセンターを見守り支援してくれている仲間であり、そのお仕事ぶり、お人柄を好ましく思っている。しかし、ネットではそのような人物像からはかけはなれた虚像がどんどん巨大化していた。だから、居ても立ってもいられなかった。最初はそんな気持ちだけだったというのが、正直なところである。

 K先生は2013年12月13日に、BKCで担当している講義「東アジアと朝鮮半島」(開講責任、理工学部)で、学生団体からの要請を受けて、朝鮮学校への高校無償化適用を求めるメッセージカードを配付した。授業の開講方針に合致する教材であると判断されたのである。大学が1月15日に公表した声明によれば、K先生は「署名は任意」、「署名と成績とは無関係」であり、カードは「学生団体の担当者が回収」すると受講生に「アナウンスをし」た。しかるに、年末年始休暇をはさんで4週間後の1月10日の授業時間中に、受講生と思われる人物が、あたかも「出席カードと引き換えに署名を強要された」かのようなツイート(つぶやき)をネット上に流し、それが、いわゆるネトウヨたちの目にとまって、一気に拡散したのである。

 ツイートした人物はなぜ4週間もたって事を起こしたのだろう。衝動的な行動ではない。ネットで拡散させる意図があったのかも謎である。しかし、在日朝鮮人の女性であると容易に推測できるK先生の実名をネット空間に流した罪は重い。私もネットで炎上した経験が2回あるが、それとは質が全く違う。マイノリティの属性を理由に攻撃のターゲットとし、事実に反する人格攻撃を、匿名で、一方的かつ大量に行う行為は、そのマイノリティ集団に対する差別の敷居を低める意図を秘めている。例えば「在日講師をクビにしろ」との短いコメントは、小さな悪意や悪ふざけから、気軽に入力・送信したものかもしれないが、それが何千と集合することで、とてつもなく巨大な暴力の怪物へと化けていく。「ヘイトスピーチ」を「差別扇動」と訳すべきだという主張は、その悪意の本質をよく見抜いたものだ。

 しかも、K先生はネット上で、顔写真や間違った経歴情報も晒されたのである。逆の立場になって考えてみたら、それは「人としてやってはならないこと」だろうに、易々とやってのける人びとがネット空間で「暮らして」いる。それを助長する社会的風潮がある。

 悲劇的な事件から、はや歳月は過ぎ、「亀の歩み」ではあるが、私たちは7月31日に「立命館・今に向き合う会」という会を発足し、ヘイトスピーチとレイシズムに組織的かつ継続的に「向き合う」ことを決意した。会の活動の詳細はブログで公開しているので、ご参照いただきたい(http://mukiaukai.jp/)。

 その後、広島大学では大学の授業を言論機関が攻撃するという異常な事件が起こったが、私たちの会は広島大学の「今を考える会」とも連携している。10月8日には、会として教学担当常務理事との懇談を実施した。確たる成果はなかったけれど、協議のチャンネルは開かれたと思う。そして、翌10月9日にBKCで特別研究会を開催した(学生約30人を含む、50人が参加)。また、10月25日には立命館土曜講座でヘイトスピーチを考える特別講演会が開催されるので、ご参加いただきたい。この問題について、ともに真剣に考えていきましょう。

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会の目的

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Author:mukiaukai0731
①立命館大学に対してヘイトスピーチやレイシズムを許さない毅然とした態度を社会的に表明することを求めます。
②立命館大学の各機関におけるヘイトスピーチやレイシズムに向き合う具体的な取り組みを見守り支援します。
③「向き合う会」として独自に学術企画や教育方法に関する研究活動を進めます。
④ヘイトスピーチや差別、人権侵害に向き合う大学間連携を進めます。
【問い合わせ先】rits.mukiaukai.0731@gmail.com

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